雇用局とブログ

エーリンゼらのクロノリープの結果、惑星の獣によって2025年1月18日に惑星レグナスが滅びることが確定した未来であることが明らかとなった。

 

 

抗うことのできない未来に人々は絶望し、ほかの惑星へと移住するものが増え、レグナスの人口は激減していた。

 

その影響はアステルリーズ雇用局も例外ではなく、活動が事実上不可能となり壊滅していた。

 

いまだに雇用局に顔をだすものも僅かにはいたものの、軒並み精神がおかしくなっていっていた。

 

例えば、あかねはレグナスが滅亡しても自分のDNAを残す確率を高めるために自分のクローンを生み出すことに活路を見いだしていた。

 

 

たべいちは洗濯機にマインドコントロールされてしまい、洗濯機が止まることを極度に恐れるようになってしまった。

 

 

ほかにも雇用局員たちに向けてひろこの新しい名前を公募したものの、精神のおかしくなってしまった局員のネーミングセンスは地に落ちているといっても過言ではなかった。

 

 

結局ひろこの名前はヘラクレスハゲヒロコに落ち着いたものの、ひろこは局員たちが錯乱を起こしている様子をみてしまうことになってしまったため、心が痛かった。

 

そんな既存メンバーの狂気に触れてしまったからか、最近加入したメンバーのsankooもひろこがハゲているという思い込みに囚われてしまっていた。

 

 

 

 

だが、それでもまだみんなと一緒にいることができただけマシだったのかもしれない。

 

その後結局みんな家にひきこもるようになってしまい、姿を見せるものはほとんどいなくなってしまった。

 

これ以降、雇用局のチームチャットが音を立てることはなかった。

 


雇用局での思い出

かつてはチャットにあふれていたアステルリーズ雇用局も、もはや人が常駐しているような状況ではなくなっていた。

 

ログインをしてチームメンバー一覧を確認しても、ログインの表示は自分だけ。

 

もちろん1日のうちにインしている局員もいるが、タイミングが合わないためか会うことはなかった。

 

そんな日々が続き、チームの活動が事実上停止してしまっているときのことだった。

 

 

幹部だったあまにゅんが雇用局から脱退した。

 

特になにか聞いていたわけではなかったので、突然の出来事だった。

 

 

驚きと悲しみの混じった感情がひろこを襲う。

 

なにかしてしまったか、それともなにもしなかったからなのか。

 

そんなことを考えていたひろこだったが、すぐに別の思いが湧き上がってきた。

 

 

実際、すでにブルプロで雇用局を盛り上げていくだけのモチベはなかった。

 

リーダーのひろこがこの状態で、人が離れていくのは当然のことだった。

 

静寂に包まれた雇用局でぽつりと呟いた。

 

 

そうであってほしいという希望の混じったチャットだったが、当然誰からも返事はなかった。

 

ブログでは面白いところだけを切り抜いているが、実際には喧嘩もしたし、打ち解ける前にいなくなってしまったひとも多くいた。

 

ひろこ自身すべてを雇用局のために時間を費やすようなベストなチーム運営はしていなかったので、局員からしたら満足のいくものではなかっただろう。

 

自分ができなかったこと、やらなかったことが頭のなかにたくさん浮かんできた。

 

そのひとつひとつに対してどうしてあのときそうしなかったのか、と自問自答を繰り返そうとしたところで、ひろこは考えるのをやめた。

 

考えるのがめんどうになったのだ。

 

 

最後のブログをだして、さっさと全部忘れよう。

 

そう思ったひろこは、最近のチャットを掘り起こすために久しぶりにSSフォルダを開いた。

 

これで最後にしようと思ったからだろうか。

 

いつもなら直近1週間分しか確認しないのに、今まで撮ったすべてのSSに注意が向いていた。

 

 

SSは2023年6月28日から2024年11月5日までの間、1年4か月で26,189件のSSを撮っていた。

 

普段ならこの大量のSSをみるだけでブログを書く義務感に駆られ、嫌気がさしていたが、このときはなにを思ったのか一枚ずつ目を通し始めた。

 

SSを通して、忘れていたたくさんの思い出がひとつずつ、蘇っていく。

 

サラムザートのバーのカウンターの向こうに壁抜けして、全員就職したことで雇用局を全員卒業したことにしたときのこと。

 

なかなかハゲ扱いされず、必死にキャラ付けのためにハゲアピールをしていたときのこと。

 

場所当てかくれんぼでモブのおっさんの顔面ドアップで問題をだしたら、人によってモブの顔が違ってひろこが反則負けしたイベントをしたときのこと。

 

イマジナリーたべいちとの遠距離じゃんけんギネス記録に挑戦したときのこと。

 

ブログを書いている証明のためにブログ配信をすると宣言しつつ、普通に信長の野望を配信してみんながブチ切れたブログ配信詐欺事件を起こしたときのこと。

 

ひとつずつ書き出していくときりがないほどに、そこにはたくさんの思い出が広がっていた。

 

それともうひとつ目についたものがあった。

 

みんなのブログの感想チャットだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

他にもSSに残っていないもののブログよかったと言ってくれたひとたちのことが頭に浮かび、それが嬉しかったことを思い出した。

 

しかし、いまや「ブログかけ。」と言われることもなくなった。

 

期待の裏返しだったその言葉を言ってくれたひとたちも、きっと新しい世界を見つけたのだろう。

 

それでも、ひろこはこう思った。

  

 

まだまだブログネタになっていない出来事もたくさんあるし、ブログに登場すらしていない局員たちもいる。

 

いまはもうブログを待っている人はいないかもしれない。

 

だが、ここにブログを残しておけば、将来ふと雇用局のことを思い出した誰かが見に来てくるかもしれない。

 

そんなときのために、時限式ボケブログ記事をここに仕込んでおくことが、今の自分にできることなんじゃないかとひろこは思った。

 

惑星レグナスが滅亡しても、ブログが残ってれば雇用局は永遠に残り、解散したことにならない。

 

そう思い、自分のやり残したことを成し遂げるため、ひろこは久々にブログの投稿画面を開いた。

 

いつものように投稿一覧の画面が表示されるが、ひとつ見慣れぬものがあることに気がついた。

 

それは、あまにゅんのブログの下書きだった。

 

しかもその下書きを残した日付は、あまにゅんがチームを抜けたあとの日付だった。

 

 

勝手にみていいものか迷った。

 

でも、もうひろこを見限って脱退したのだから、下書きを処分するということで開いてみた。

 

 

もしかしたら、まだブログを待っている人もいるのかもしれない。

 


思い出はプライレス

それから、ひろこは朝昼晩ブログ漬けの日々を送った。

 

もちろんたくさんブログを残したいという衝動に突き動かされていたことも事実だが、ブログを書く決心をしてから死んでいったチャットたちの姿がみえるようになってしまったこともその原因だった。

 

 

気を抜いたら死んだチャットたちがチャットをしてきそうなのがたまらなく怖かった。

 

特にLimuruやTokiyaあたりの一度も登場してない面々のチャットは一段と何をしてくるかわからなかったので、目をそらして黙々とブログを書いていた。

 

この異常な状況下で、この日もひろこは書きたかったネタを書いていた。

 

それは存在しない架空の局員が、あたかも本当にいるかのようにみせる記事だった。

 

 

こういうしょうもない記事でも、ちゃんと読んでくれてツッコミをいれてくれる雇用局のみんなとの日々が楽しかったことを思い出す。

 

ひろこは目を細めながら、またブログ書き始めた。

 

そして実はこのときのひろこはブログだけでなく、アルバムも作っていた。

 

ひろこが残したSSはほとんどがチャットのSSのなか、わずかだがみんなとした撮影会のSSもあることに気が付き、思い出としてまとめることにしたのがきっかけだった。

 

アルバムはSSの量がそれほど多くはなかったのですぐに完成していた。

 

息抜きにアルバムを見ようと、ひろこがアルバムに手を伸ばした時だった。

 

雇用局の廊下を郵便配達員が死んだチャットたちをかき分けて走ってきた。

 

郵便配達員は、その手にもっていた一枚の紙をひろこに渡した。

 

ひろこは戸惑いながらも、受け取った紙を広げた。

 

受け取った紙、ひろこがそれを見るのは初めてだった。

 

 

Googleからの請求書だった。

 

 

ひろこは言葉を失った。

 

このブログはGoogle Cloud上で動作している。

 

当然毎月利用料を支払うのだが、先月までは無料トライアルだかなんだかで費用は発生していなかった。

 

それでも利用額はだいたい3,000円程度として計算されていたはずだった。

 

 

払うだけなら払えない金額ではないが、さすがに負担が大きくて驚いてしまった。

 

 

これがいつものブログであれば、ここでオチをつけていただろう。

 

でも、みんなに示した自分の覚悟を茶化したくなかった。

 

もしみんなとの思い出を残す決心をしていなかったならば、もうGoogle Cloudを解約していただろう。

 

文句は言っているが解約を言い出さないひろこをみて、配達員が口を開いた。

 

 

ひろこは頷いて言った。

 

 

 

8万円のダメージに顔を引きつらせながらも、ひろこは自分の覚悟を示した。

  

みんなとの思い出に比べたら8万円なんて大した金額じゃない、そんな気持ちでひろこの心はあふれていた。

 

 

今はお金のことなんかよりも、完成させたアルバムを誰かに見てほしかった。

 

ひろこは自分がつくったアルバムをボブに渡してみせた。

 

 

アルバムを見ているボブの表情をみて、ひろこは満足そうな顔をしていた。

 

 

ひろこはせっかくなら、10月分の請求書ではなくここから2025年1月18日までの約3か月間の合計金額をだしておこうと思った。

 

 

ひろこ的には8万円よりも月の手取りを上回っている24万円のほうが、衝撃が大きいしこれでみんなも笑ってくれるならそれでいいや、と思っていた。

 

もうさっきまでの8万円に対して抱いていた動揺はなくなり、心が安らかに保たれていた。

 

 

冗談を言いながら普段いじらない画面をなれない手つきで、費用の画面を開く。

 

表示される10月請求分の8万円に苦笑いしながら、今度は1月までの期間で絞り込む。

 

そして、予想費用を表示した。

 

集計結果が表示され、ひろこはある決断をした。

 

 

雇用局、解散します。

 


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