前史
当時の雇用局は血みどろの派閥争い時代であったものの、クライン領から独立宣言をしたあまにゅんの拉致政策により、パワーバランスが変化。
あまにゅん一強時代が訪れ、あまにゅんを恐れたでそとひろこはあまにゅんと同盟を結ぶことで雇用局に平和の時代が訪れたのだった。
こうして雇用局をまとめあげたあまにゅんは、チーム「えとわる」との合同イベントの企画を発案した。
チームの垣根を超えたさらなる交流の活発を目的としたプロジェクトが始まったのだった。
2024年1月16日
この日、チーム合同イベントの運営のために設置された「二組織間合同撮影会対策本部」に雇用局からはあまにゅんとひろこ、えとわるからはリーダーのたくみが招集された。
議題はもちろん合同イベントの詳細な打ち合わせで、イベントの成功のため、各々が意見を出し合った。
参加メンバーの人数、連絡手段、構図・場所の指定などイベント時の構想を練りあう。
その後も詳細なやりとりが続けられ、対策本部設置から2時間が経ち、ある程度の話がまとまった。
イベントの内容は1月27日の21時から22時に海鳴りの草原の山頂での合同SS会に決定した。
三人で作り上げたイベントの内容でみんなが盛り上がってくれると思うと運営側としてもうれしいね、という三人の共通の思いが一致したところでこの日の会議は終了した。
解散後、対策本部室からでたところであまにゅんから声を掛けられる。
ひろこが遅刻など、するはずがなかった。
2024年1月27日 20:00
イベント開催の1時間前、ひろこは遅刻どころか早めに準備をしていた。
早速ひろこが自分のPCを起動しようとしたその瞬間、勢いよく家の扉が何者かにこじ開けられた。
「ひろこはどこだ!!でてこい!!」
ひろこの家の周りには300人ほどの兵士が取り囲んでおり、しかもその兵士のもつ旗には、でそ家の家紋が書かれていた。
でそ軍の自称四代目局長ひろこ領への侵攻が、始まったのだった。
結果でそは、ひろこ領とチームリーダーを乗っ取ることに成功したのだった。
死にかけたひろこはとにかく自分の命を守るために逃げたのだった。
2024年1月27日 20:30
でそ軍に追われ続けたひろこは、なんとか静岡市まで逃げ切ることに成功した。
合同イベントまであと30分というところだったが、この出来事に対して雇用局内では「雇用局内緊急合同撮影会対策本部」が設置された。
ひろこはリモートで会議に出席し、あまにゅん議長のもと会議がすすめられた。
この状況下での合同イベントを続行するかどうかが論点となったが、会議の結果決定されたことは、こうだった。
・雇用局内の派閥争いによる合同撮影会の失敗は、合同撮影会協力チームに対し不義理を働くことになるため、雇用局内での派閥争いはなかったものとして処理すること。
・合同撮影会を成功させるために局員天上院ひろこは迅速にインターネットカフェを調査、入店し、確実に合同撮影会に参加すること。
会議後、ひろこからあまにゅんに「もし参加できなかったら申し訳ない」と送ったメッセージに対して返信がきた。
何も見なかったことにしたひろこは、静岡のネカフェへと走り出した。
2024年1月27日 20:50
合同イベントの約束の時間が近づき、ひろこはネカフェについた。
もうログインをするだけになり、何とかイベントに間に合ったと思ったひろこに突然Lineが届いた。
送り主は、あまにゅんに拉致されすぎて洗脳されてしまった過激派あまにゅん信者だった。
言われなくてもイベントのためにログインをすると決めているのに、爆死させるという脅しをかけられたひろこはムッとした。
もしログインができずにイベントが失敗してしまうと、雇用局とえとわるの間の空気は悪くなり、ギスギスした関係になってしまう。
絶対にログインをしてみせる。
その決意はもはや、イベントに参加したいという思いだけではなく、雇用局とえとわるを守るためのものへと変わっていた。
そんなひろこの目の前に広がっていたのは、
インストール中の画面だった。
2024年1月27日 同時刻
ここは晴天の海鳴りの草原。そよ風が心地いい。
今回登山予定の山から少し離れた広場であまにゅんがえとわるのメンバーに声をかけていた。
そんなあまにゅんの人数確認をよそに、アイスノンはえとわるのしろはなだに身長マウントをとっていた。
お互いのチームで人数を確認していると、けろがある質問をなげかけた。
つられて、えとわるのたすくも声を出す。
ひろこが裏でみんなのために戦っていることなど彼らは知る由もない。
しばらくしてそれなりに人数が集まり、さらにもうひとり遅れて現れる。
これから始まる合同イベント前のにぎやかな話し声が、海鳴りの草原に響いていた。
2024年1月27日 21:20
長い長いインストールのあいだ、ひろこは何度かフリーズする画面を見ながら待っていた。
画面が固まり、突然一気にインストールのゲージが進みだし、また固まる状態を繰り返した。
なかなかログインできないが、このペースなら22時までには余裕でログイン可能とひろこはみていた。
そして登山の事前予習もしていたのですぐにみんなと合流して、20分程度は一緒にSSを撮ることもできる。
そんなことを考えていたそのとき、ついにインストールが終わった。
すぐさま、ゲームスタートのボタンにダブルクリックを叩きつけ、ゲームを起動させた。
しかし、ひろこの目の前に広がっていたのは、
通信エラーの画面だった。
2024年1月27日 同時刻
空高くから草原を照らしていた日も暮れかかり、薄紫色の空が広がっていた。
ずっとひろこを待ち続けたものの、しびれを切らしたあまにゅんが口を開いた。
この会話を聞いて行軍なれしている領主のでそが、馬に飛び乗りゆっくりと進み始めた。
幾多の戦を乗り越えた猛将の隣をしろはなだが並走した。
一行はゆっくりと、地面を踏みしめ山の麓へと向かった。
ぞろぞろと行列をなして進んでいき、山の麓に着くころには夜になっていた。
冷たい風が草原を吹くなか、山を見上げてあまにゅんが口を開く。
そう言いながら、あまにゅんはいつも拉致するときに使うチャカをポケットから取り出した。
草原に銃声が鳴り響き、登山競争が始まった。
2024年1月27日 21:40
部屋のPCのスペックに難ありとみたあまにゅんの助言から部屋のチェンジをしたひろこ。
幸運にも元々ブルプロがインストールされているPCだったため、すぐに起動にとりかかる。
しかし、
ファイルに問題があるため、起動できなかった。
このままログインできずにイベントに参加できない可能性が頭によぎり、さすがにひろこの顔にも焦りが出始めてきた。
ログインできなかったら爆死してしまう恐怖に今にも逃げ出したくなったひろこは思わずネカフェの廊下に飛び出す。
はやくなった鼓動を抑えるために深呼吸をする。
そのまま何分か経ったところで、ひろこは勇気を振り絞った。
吐きそうになりながらも雇用局とえとわるを救うことができるのは自分だけだ、と自分に言い聞かせた。
まだ最後のインストールをする時間は残っている。
さっきまでいたネカフェの部屋を見る。
普段使っていない初めて扱うPCに苦戦していたが、ここにきてひろこはこのPCと共に戦う覚悟ができた。
ひろこはそのPCに、いや、そのネカフェの部屋に、共に戦い勝利するという意味をこめて「eternal victory alliance」と名付けた。
略してEVAにひろこは乗り込んだのだった。
2024年1月27日 同時刻
最初に山頂に到達したのは、でそだった。
えとわるのやきそばが2着で到着し、それにしろはなだが続く。
やがて、ほとんどのメンバーが山頂に集まる。
登山が苦手なメンバーのためにあまにゅんとえとわる登山部のサポートが入り、無事に全員が登頂。
ようやくイベントの目的地につき、今回の本題に入る。
海をバックに撮影しようとみんなで近くによって配置を探っていると、すこし離れたところに座り込んだやきそばが海を見つめていた。
そんな会話を皮切りに撮影会が始まった。
2024年1月27日 21:55
EVAにのり、インストールのボタンをセンターにいれてスイッチしたひろこ。
EVAとブルプロのシンクロ率はみるみるうちに高まっていた。
最初に使っていたPCとは違い、EVAでのインストールはとてもスムーズにいった。
インストールが完了間際になり、ひろこは目標に照準を合わせた。
イベントの終了までもう1分もない。
全力を出したせいでEVAの生命維持装置も機能しなくなり、神経接続を28%にカットした。
ついにインストールが完了し、ひろこはすぐさまブルプロを立ち上げるためにゲームスタートのボタンを押そうとしたその瞬間!!
EVAに搭載されていたセキュリティソフトがATフィールドを展開した。
今までのインストールが無駄になった。
一縷の望みをかけて、ゲームスタートを押す。
当然ファイルが削除されているため起動ができなかった。
そして、時刻は22時になった。
自分の使命を全うできなかった絶望感がひろこを襲う。
ひろこは雇用局とえとわるを守れなかった。
己の無力さにうちひしがれながら、天井をみつめていた。
ふと、ログインできなかったら爆発するということを思い出し、ひろこは目をつむった。
・・・
・・・
・・・
おそるおそる目を開ける。
しかし、なにも起きていなかった。
ひろこがとまどっていると、頭の中にイベントの様子が流れ込んできた。
撮影が終わったところのようだった。
そして、みんなが撮ったSSが流れ込んでくる。
無事イベントが終わり、雇用局とえとわるの間に亀裂は入っていなかった。
戸惑うひろこの頭の中に、さらにSSが流れ込んできた。
そこには、ひろこが写っていた。
ひろこはすべてを理解した。
そう、いつだってひろこはみんなと一緒にいた。
いつもみんなと心で通じ合っていた。
もちろんこの日も21時よりも前からみんなの心にログインをしていたのだった。
最初からみんなの心にログインをしていたため、ログインできなければ爆発してしまうということも、あまにゅんに拉致されるという約束もなくなっていた。
憂鬱だったひろこの視界が一気に広がった。
そこにはみんなが、いた。
みんなの祝いの言葉に対してひろこは笑顔で返事をした。
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