それはえとわるとの合同釣りイベのときだった。
ひろこはSDGs賞(最もゴミを釣り上げた賞)を獲得した。
所詮勝負に敗けた者たちの戯言だ。
己の実力のなさを敗者が勝者にぶつけることなど、”勝者”のひろこにはよくわかっていた。
戯言を抜かす敗北者を無視して、ひろこはSDGs賞の権利を行使する。
今ここではひろこがルールなのだ。
そんなことを言っていると、今回のカサゴ釣り大会の優勝者が発表された。
最大サイズを釣り上げたのはたくみだった。
さらに追加された最多カサゴ賞も畳みかけるように発表され、安元が受賞。
えとわるが二つの賞を獲得し、雇用局はゴミ賞一つとなった。
ここでえとわる勢が、ゴミ賞でイキっていたひろこにカウンターを始める。
この前のイベントでXのアカウント名をよけろナッポォに改名させられたばかりなのに、またも改名をせまるしろはなだとひろこをえとわるへ引き抜こうとするたすく。
改名はともかく、引き抜きに関しては冗談でもそんなことを聞いてしまったら雇用局の仲間たちがひろこのために憤慨するのは必定だった。
そう強がるみんなの声は、震えていた。
でそにいたっては、目に涙をためていた。
そんな悲しそうな彼女を慰めるために、ひろこはでそに近づこうとした。
でも、その体は決してひろこを拒んではいなかった。
チャットではあんなことを言うが、いざ近寄られたらやっぱり受け入れてしまうのが雇用局員なのだ。
もう我慢しなくていいんだよ、とでそとその隣にいたZoareを抱きしめるために距離を一気に縮めた。
その時だった。
一発の銃声が、港に響き渡った。
Zoareの放った銃弾は、ひろこの右側頭部を貫いていた。
Zoareのひろこを拒絶したかのような一連の行為を認識する間もなく、ひろこの意識は薄れていった。
これが、雇用局からゴミが掃除された瞬間だった。
えとわるへ
気が付いた時には、自分の見た目がかわっていた。
突然自分の姿が変わったことにとまどっていたひろこだったが、自分のネームタグをみて、すべてを思い出した。
アステルリーズ雇用局の局長ひろこというのは夢だったのだ。
ひろこだと思っていた自分の本当の名前は――。
えとわるの七代目雇用局清掃員避菜葉だったのだ。
そんな(イベントのたびに変わる)名前は重要ではない、大事なことはひろこはずっとえとわるに所属していたということだ。
2023/6/15からずっとみんなと一緒にいる俺たちの大切なチーム、えとわる。
そんな大切なチームのことをなぜ忘れていたのかという疑問は、えとわるのチームカードを見た瞬間に解消された。
ブルプロ内でのえとわるの解散、それがショックだったひろこは自分の記憶に蓋をし、アステルリーズ雇用局の局長と思い込むことで自分の精神を保っていたのだった。
ひろこの中で失われていた記憶が全て蘇った。
ひろこが記憶を取り戻したことを察したたくみがひろこに質問をする。
みんなでサイゼにいった思い出もあれば、誰かをお持ち帰りした思い出もある。
大切な思い出がたくさんあるせいで、ひろこは言葉につまってしまった。
それをみて、たくみが質問の仕方を変えた。
えとわるにはかつて、チームの顔となるほど目立った有名人のようなメンバーがいた。
しかし、あることをきっかけにチームから抜けてしまったのだ。
えとわるに入ったあのときから、お前えとわるじゃなくね?という悪ふざけを今でも続けてくれることが、ひろこをえとわるの一員として今でも受け入れてくれることの証だった。
既知との遭遇
この日もえとわるのみんなと楽しく遊んでいたところを、ひろこは珍しく野良で絡まれた。
雇用局さんのところのあかねさんとでそさんだった。
でそさんは雇用局に戻るみたいな話をふってきたが、もともとえとわるのひろこにとっては何のことかさっぱりだった。
しかし、雇用局さんのふたりの圧がこわかったため、そういう体で話すことにした。
こういうのはひとまずそれっぽい謝罪をしておけばなんとかなるものだが、でそさんはちがった。
その場をきりぬけるためについた嘘だった。
あたまがやべーと噂の雇用局さんに目をつけられてしまったからには、えとわるがただではすまないと思ったひろこは、自分があえてやつらのカモとなることで雇用局さんからのヘイトを自分だけにむけることにした。
これでえとわるには、変なことをされない。
えとわるの仲間を守るためのひろこの選択は、かっこよかった。
さらに取り巻きのあかねさんが追い打ちをかけにきた。
あかねさんがキャワイイひろこのからだを担保にいれようとしていることはみえみえだった。
それでも、えとわるを守るためならとひろこは決心した。
この日から、ひろこは大きな苦悩を抱えて生きていくことになったのだった。
えとわるは解散しても続くよ
えとわるのみんなはいつもなかよし。
この日も学校帰りの公園でみんなと仲良く遊んでいました。
たくみくんはクーちゃんのランドセルに手を伸ばして言いました。
実は、昨日の授業中にお風呂に入っていないひろこちゃんはクーちゃんにこう言われました。
こんなに口が悪いクーちゃんも学校ではいい子とされているのです。
不服だったひろこちゃんは実力行使に出ました。
あの一件以来、クーちゃんはひろこちゃんが体も口も臭いことを学校中に触れ回っています。
なにはともあれ、クーちゃんのランドセルはたくみくんからひろこ菌をもらったのでした。
なんと、クーちゃんはとっさの判断でバリアを張ることでひろこ菌を無効化するという奇策にでたので、ぼくはとてもびっくりしました。
クーちゃんはまさにドヤ顔というような余裕の表情をしていました。
これにピキったたくみくんが後付けの設定を追加しました。
とりあえずぼくも煽ることにしました。たのしかったです。
―――あれから、5年が経過した。
小学校を卒業して25歳になったひろこたちには、ついにえとわるの解散が迫っていた。
かつてえとわるに入ったころは偽えとわる説がでていたひろこもこの時にはすっかり仲間として定着していた。
それから解散直前まで、みんなで面接ごっこをしてひろこを不採用にしたり、たくみがバイクでひろこの頭を潰したりと、たくさん遊んだ。
もうすぐ、みんなとも離れ離れになってしまう。
ここでひろこは、5年前から持ち続けている悩みをみんなに打ち明けることにした。
雇用局さんからの脅しにずっと耐えてきたことを、自分勝手かもしれないがえとわるのみんなにも言いたかった。
つらかったのだ。
ひろこの心はボロボロになりかけていた。
えとわるのみんなは、ひろこに向き合って次の言葉を待っていた。
こんなボロボロのひろこに寄り添ってくれるえとわるのみんなを前にして、いまにも泣いてしまいそうになった。
泣くのをこらえて、自分の決めた選択をみんなに伝える。
ずっと一緒にいてくれたみんなと、これからもまた一緒にいたいと言いたい気持ちにひろこは嘘をついた。
自分が楽になるためだけにみんなを付き合わせることなんてしたくなかった。
ひろこはみんなの方を見た。
5年間の間、仲良くしてくれたみんなにこんなこと言ったら、みんな自分のために引き抜かれに来てしまうかもしれないとも思ったが、ずっと伝えたかった言葉を伝えた。
この言葉はみんなを縛る呪いになってしまうかもしれない。
でも伝えざるを得なかった。
やっぱり、俺たちは仲間なのだから―――。
そう強がるみんなの声は、震えていた。
たくみにいたっては、目に涙をためていた。
解散の時間が、近づいていた。
0時ぴったりの解散までもう間近、いろいろな感情が湧き上がってくる。
たくみが震える声で残り時間をカウントする。
もう我慢しなくていいんだよ、とひろこはたくみを抱きしめるために距離を一気に縮めた。
その時だった。
えとわるから、除名された。
さらに2時間前からひろこの頭に載せていたたくみのバイクがひろこの右側頭部を貫いていた。
まるでひろこを拒絶したかのような一連の行為とえとわる解散の瞬間を認識する間もなく、ひろこの意識は薄れていった。
これが、えとわるからゴミが掃除された瞬間だった。
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