戦場の死神

その日、はてながぼそっとつぶやいた。

 

 

賑やかだったチームチャットがぴたりと凍り付いた。

 

それもそのはず「死神」になるということはとても難しく、かつ大きな意味を持つからだ。

 

冥界の就職ランキング一位の仕事である「死神」に就職するためには条件がある。

 

その条件とは、善良なゾルキシア兵を10,000体を地獄に送るという悪行の限りを尽くすこと、もうひとつは冥界で勤務するために自分も死ぬことだ。

 

 

残念ながらいまの雇用局には死神の求人はないし、何よりも死神宣言は自殺宣言と異ならないため、静かなチームチャットとは裏腹に局員たちの胸中はざわついていた。

 

死神になると死神特有の不気味な笑い方をしたり、頭がぶくぶくナッポみたいになってしまうぞと脅しをかけたが、はてなは聞く耳をもたなかった。

 

それでも就活と終活を混同しているはてなの頭を冷やし、死神を目指すことをあきらめさせたいという思いが局員たちに共通の思いを惹起させた。

 

頭を冷やすと言えば。

 

そう。

 

「クールポコ」だ。

 

 

 

 

 

天使もあの世のものだろうが。

 


死神街道まっしぐら

 

 

 

仲間たちの呼びかけをよそに、はてなは体内の気を両手に凝縮する。

 

 

そこへ、手紙を持ったゆうちゃんが走ってきた。

 

ゆうちゃんはたった一度だけ、過ちを犯してしまったことがある。

 

配達帰りの雨の夜、疲れていた彼は横断歩道の人影に気が付かずに車のブレーキが間に合わなかった。

 

「人殺し、あんたを許さない。」

 

彼は、涙を流す被害者の奥さんの足元でひたすら大声で泣きながら、ただ頭を床にこすりつけるだけだった。

 

それから彼は、人が変わるように働いた。

 

償いきれるはずもないが、せめてもと毎月奥さんに仕送りをするために。

 

その事件から七年が経ち、初めてあの奥さんから便りがきた。

 

ゆうちゃんは、震える手で手紙を開いた。

 

「ありがとう、あなたの優しい気持ちはとてもよくわかりました。

 

だからどうぞ送金はやめてください。

 

あなたの文字を見るたびに主人を思い出してつらいのです。

 

あなたの気持ちはわかるけど、それよりどうかもうあなたご自身の人生を元に戻してほしい。」

 

ゆうちゃんは泣きながら、その手紙を抱きしめた。

 

償い切れるはずもないあの人から手紙が来たのがありがたくて、ゆうちゃんはその手紙を、自分の過ちを知っている親友のもとへみせに駆け出した。

 

ゆうちゃんは、はてなを見かけると軽く「こんばんは。」と挨拶をして横を通り過ぎようとした。

 

しかし

 

ゆうちゃんは、ゾルキシア兵だった。

 

 

大きな声と共にはてなの掌から灼熱の破壊エネルギーをもつ気功波「こんばん波」が放出された。

 

 

ゆうちゃんとDesoは、「こんばん波」の餌食となった。

 

 

敵を片付けたはてなは「こんばん波」を放った両手を下ろした。

 

 

そう笑うはてなの瞳には、めらめらと燃えるゆうちゃんの手紙だったものが映っていた。

 


時間稼ぎ

はてなは、その後もゆうちゃんみたいなゾルキシア兵を数千単位でなぎ倒していった。

 

 

 

このままでは大切な仲間が死神になるために死ぬことが現実のものになってしまう。

 

とにかく一度はてなの気をゾルキシア兵からそらすために変なチムチャでもして時間を稼ごう、と局員は一致団結した。

 

  

  

  

  

 

みんなの心の中で(やったか!?)という声がハモる。

 

はてなに注目が集まる。

  

 

はてなは全く聞いていなかった。

 

チムチャよりもゾルキシア兵の首のほうが飛び交う異常な空間ができていた。

 

ここで、流れを変えるあの人物が帰ってきた。

 

 

 

 

 

あおの登場もむなしく、ゾルキシア兵の首はなお飛んでいく。

 

もう俺たちにはてなを止めることはできないのか、とあきらめかけたその時。

 

 

 

はてなに隙が生まれ、飛び交っていたゾルキシア兵の首が止んだ。

 

いまこのとき局員たち全員で、はてなを枷神の産屋から引きずり出せばはてなの死神化を防ぐことができる。

 

この隙を無駄にはできない。

 

 

 

 

 

隙ができていたのは、はてなだけではなかった。

 

一息遅れたが、はてなより先にひろこは走り出した。

 

 

はてなの腕をつかもうとしたそのとき、はてなの姿が消えた。

 

ひろこは、なにが起きたのか理解できなかった。

 

戸惑いながらあたりを見回すと。

 

※線画コラ:クライン 塗り:kerro

 

ぶくぶくナッポの頭をした見慣れないものが後ろに立っていた。

 

 

それは死神の特徴として適当にでっち上げた姿と一緒だった。

 

ヘルメットから籠った声が漏れてくる。

 

 

その死神から聞こえる不気味な笑い声は、はてなのものだった。

 

そしてそのままひろこの命を奪いに来た、物理で。

 

 

 

死神の筋肉にひろこが抗えるはずもなく、意識が飛びそうになる。

 

もうだめだと思ったそのとき、いままでのみんなとの思い出が走馬灯のように頭の中に蘇ってきた。

 

あれはゆいちごコンビと仲良く遊んだ時の記憶。

 

 

 

 

 

そしてこれは、みんなと上品な会話をしていた時の記憶。

 

 

 

 

 

 

 

他にもたくさんの思い出が蘇ってきていた。

 

(きっと走馬灯で最後に見える記憶は自分にとって最も大切な記憶なんだろうな。)

 

そんなことを思いながらたくさん流れてくるひろこフルボッコチャットを眺めているとはてなとの記憶が流れてきた。

 

はてなが死神になるために、無辜のゾルキシア兵を1万体駆逐して手を汚してしまったことを止められなかったことを、ひろこはずっと後悔している。

 

なぜとめられなかったんだろう、もっと自分にできることがあったんじゃないか。

 

どうして、「こんばん波」があればマックでバイトするときにフライドポテトを迅速にお客様にお出しできることを伝えられなかったんだろう。

 

強烈な罪悪感に苦しめられたひろこは、ごめんなさい、ごめんなさい、と言うことしかできなかった。

 

これ以上はてなとの記憶を見せられても、苦しいだけだからもう許してほしい。

 

そう願い、泣きじゃくりながらひとりで謝り続けているひろこに、最後の記憶が浮かび上がってきた。

 

  

ひろこの目から流れていた涙が止まった。

 

 

最後にろくでもねえ記憶が蘇り、ガン冷めしたひろこには、後悔も罪悪感もなかった。

 

ただ、笑顔で目を瞑った。

 

 


P.S.「こんばん波」でDeso領は、はてな領になりました。


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